産婦人科医暦45年のDr.Toeによる趣味のサイト
東條純一(JH3AEF)故田路嘉秀(JA3XZW)
アマチュア無線家からの提言
今回は、阪神大震災に関するアンケート調査(平成11年1〜2月)のうち、
アマチュア無線家より寄せられた貴重な意見の数々をまとめてみた。
アンケートは発送335、回収153、回収率50%であったが、各回答には数多くのコメントが付けられており、その数は271に達し、また、これらとは別に数多くの参考資料をご送付いただき、大規模災害に対するアマチュア無線家達の関心の高さを強く感じた。回答を、貴重なご意見を、また資料をお送りいただいた方々に心から感謝を申し上げます。
その貴重なご意見を大別すると以下の9項に集約された。なお、重複するご意見は一文にまとめ、固有名詞は〇印に置き換えさせていただいた。
(T) 地震直後及び当日
1. 直後
約15分ワッチ(VHF)したが、何の信号も 聞こえなかった。
30分後CQを出したが、何の応答も無かった。
当日定例のオンエアーミーテイングの日だったが、激震地の局は全く声が聞かれず遠方の洲本、須磨の2局がオンエアーしたのみ だった。その他の各局は、出るに出られない状態であったようだ。
直ちに非常通信の運用を開始した。
当日ネットのキー局の当番だったが実は点呼をする余裕などなかった。
ワッチはしたが、自分が必要とする情報は得られなかった。
忙しくて落ち着いてワッチする時間など無かった。
所属クラブの各人宅はいずれも壊滅状態で全く連絡もつかなかった。
2.
無線のスイッチは入れられなかった。
動転していて冷静な判断が出来なかった。
ハムには頭が回らなかった。
ハムの資格を持っている事など思いもつかなかった。
直後は自分と家族の事で頭がいっぱいで、アマチュア無線のことは頭に無かった。
どのように活用して良いか、解らずじまいに終わった。しかし、被災者の様子を見た限り、無線どころではなかったように思える。
初動で組織的活動が出来なかった。
家が全壊し直ちに避難したので、ハム活動はしていない。
(U) アマチュア無線を有効に利用した
1.有線(公衆)通信が途絶するなか、無線は断然有利と実感した。
2.携帯電話も不通のなか、一時はアマチュア無線だけが唯一の通信手段であった。
3.連絡用にアマチュア無線の通信能力の有力さを知った。
あらゆる場面でアマ無線が連絡用として活躍した。
JARL本部局に現地の状況を報告。
JARLより提供されたリグを使い避難所間の連絡がはかどった。
避難所での生活物資の依頼、救援物資配送センターでの使用に重宝した。
ボランティア活動での連絡手段として有用。
移動局と連絡をとりながら、ガス漏れ情報のある地区に急行、止栓処理をした。
救護用特設BBSを開局した。
パケット通信を通じて情報の交換をした。
救援物資を運んできた自衛艦との連絡。
職場と家庭との連絡に使った。
ハムは非常時今後とも大いに活躍すべきだ。
多くのハムが積極的、合法的にアマチュア無線を使って活躍出来た事は非常に素晴らしいことだ。
近畿地区非常通信ネットを結成し現在啓発活動を進めている。
アマチュア無線を有効に利用した阪神間の各局に敬意を表したい。
4.状況の把握に有用であった。
電話、交通機関、道路不通の中、ハムの連携により親族の無事を確認できた。
当初、被害状況がつかめない中、ハムにより事態の重大さを知った。
当初、家の周辺の状況把握。
仲間の被災状況、援助の要、不要の把握。
生活情報の収集。
道路事情の把握に使った。
被災地から避難したが、倒壊家屋の状況は随時ハムを使って報告してもらった。
避難所での情報収集に使った。
5.情報の伝達に有用であった。
相互通信が可能な上、不特定多数の局に情報を送ることが出来、非常に有用。
官公庁内に設置されたアマチュア局からの正確な情報の一斉伝達、避難所、医療機関から各移動局への 一斉連絡に非常に有効に使えた。
ミニFM局と避難所、各メデイアと地域自治会との間で情報の交換が出来た。
自分たちの無事と現況をハムの連携により遠くの親族に伝達できた。
自分の現況を会社に連絡できた。
ガス漏れ情報をハムをつないでガス会社に通報した。
他府県から援助に入って来た車の誘導に使用。
ごく一部の使用可能な電話と避難所、病院、役所などの間を結び伝達内容の中継をおこなった。
出力は小さくても小型のハンデイー機が役に立った。
専門分野での緊急時ネットに有効に利用出来ると思う。是非検討されたい。
6.心のささえに役だった。
色々な面でハム仲間が援助して下さり本当に助かった。
全国のハム仲間から暖かい励ましの言葉を、アマチュア無線を通して直接聞くことが出来たことが、
大いに心の支えになった。
今回の震災を経験し、多くのハムに励まされ何とか立ち直る事が出来た。今後はアマチュア無線を通じ、人のお役に立てることをしてみたい。
親友であるハム仲間宅が全壊し、その励ましと復旧の手伝いに連日出向いた。
(V) アマチュア無線を運用したが課題を残した
1.
効率良い効果的な運用は出来なかった。
統率のとれたハム活動が出来るよう、想定されるケースに応じて予め運用本部の選定、運用システム、マニュアルにつき検討、稼働訓練をするべきだった。
災害時を想定した通信訓練を年数回実施し、日頃より非常通信に慣れておく必要をがあった。
非常時に使用する周波数、電波型式等を予め設定し周知徹底する必要を感じた。
大災害では局地的全壊状態もあり、広域での連絡体制が必要。
平素からハム間の交流、情報交換、クラブ活動の活性化をはかり、各局間のつながりを密にしておく 必要を痛切に感じた。
常々何のつながりも無い者が非常時にうまく協力、利用することは出来なかった。
クラブは、大規模災害を想定した行動について、検討、訓練をすべきだった(できれば、非常時に利用可能な設備や、二段、三段がまえの連絡体制も)。
通信技術の向上の必要性を感じた(簡潔明瞭、迅速確実)=ある消防士。
個人では有効な活動が出来ず、クラブに所属しておく必要を感じた。
どの周波数でどのような情報が得られるか全く解らず、当初はまごまごするばかりであった。役所、 保健所、医療、交通などにチャンネルを指定すれば混信を防げる。非常時の通信手段にアマチュア無線の あることを、日頃から折に触れ一般にPRする必要があると感じた。
最寄りの交番と日頃から連絡を密にし、通信手段を持つハムの存在をPRする。
災害通信に使用するため、使っていないハンディ機を貸して下さいとの要請を受けた。日頃よりリグの調達法の検討を。
救助、復興と直接関係のない車にまで道路情報通信を行い、不必要な混乱を招いた。
災害時のアマチュア無線の利用は、どう連絡を取るかより、何の連絡に使うかが先決である。個人的な安否や道路情報を得るのに安易にオンエアーすべきでない。
自分は高齢で実働出来なかった。
自分は歳をとり、声がかからなかった事が淋しかった。
報道に名を借りたヘリコプターの騒音は凶器のように感じた。助けを求める多くの声がかき消され救助の遅れを招いた。通信もその度に中断せざるを得なかった。
2.ハムが受けたダメージ
避難の際無線機まで持って行けなかった。
アマチュア無線の事は忘れていなかったが、身の回りの事が忙しくオンエアーするゆとりと、その必要が無かった。
無線機も大破、生活するのに精一杯だった。
震災で家と仕事場を瞬時に無くした者にはアマチュア無線は必要と思われなかった。
ライフラインが止まり、食料にも不安が起きたとき、行政もアマチュア無線も無力と感じた。
震災後半年はアマチュア無線にオンエアーする気になれなかった。
震災の思い出はつらく未だにその写真報道など見ることが出来ない。
3.ハムのマナー
非常通信、災害通信を優先する通信技術と知識の啓発の必要を痛切に感じた。
非常通信、災害通信、特別局に使用周波を譲る冷静、寛大な精神をもってほしい。
JARLの指定する災害通信周波数の使用に関し、既得権を主張するグループとトラブルが起こった。
周波数の使用区分、特に特別局に割り当てられた周波数の持つ意味を理解していない人々が起した混乱は非常に悲しい。電波法令抄録に厳しく明記して欲しい。
被災地に隣接する地域での電波の発射は被災地の通信に大きな影響を与えることを認識してほしかった。
ハムにもっと自覚とプライドとモラルを。
被災地では非常事態なのに、必要周波で長々と不必要なラグチュウをする局、UC局、8J3ABQ(JARL局)をかたる局、音楽をかぶせる局、無変調波を出す局等々のため通信がしばしば混乱した。
重大な不法行為は厳しく取り締まるべきだ。混信ならともかく、不法行為には我慢できない。
被災していない地域の局のごく一部に、無責任で迷惑な応答をした局、真剣な通信を面白半分に茶化すものがいて残念だった。
特定の周波数を特定のクラブや集団が独占して譲らない姿勢ほど醜く、困ったことは無かった。非常時だけでも規制すべきだ。
4.アマチュア無線の利用に批判的な意見
災害時の重要な通信にアマチュア無線を使うことに賛同出来ない。
必要通信は業務用無線に限り、アマチュア無線は遊びだけにすれば良い。
アマチュア無線を一部の人達の利便のために使うことに賛成出来ない。
(W) ハード面に関する反省
1. リグが使えなかった
リグは直ちに使える状態になかった。いざという時のために日頃から手入れを。
大きな家具の下敷きになりリグを取り出せなかった。リグの設置場所に留意。
ハンディ機は日頃から持ち出し容易な場所に置くこと。
アンテナ、リグ共に破壊され、使用不能。
2. 多くの局が悩んだ電源の問題
電源が無いと何も出来ないとつくづく思った。
電源が充分であればもっと幅広い救助活動が出来たのに残念。
商用電源なく、バッテリー切れ、ハンディ機の電池も無くなりどうしようもなかった。ソーラーシステムの利用を計画中。
避難所から救援を求める連絡が多くあったが、電圧低下、送信不能の状態でどうにもならなかった。
自動車のバッテリーを大切に使った。日頃から利用法を心づもりしておくこと。
携帯テレビに自動車のバッテリーをつなぎ、近所の人達に見てもらい喜ばれた。
車載機が停電のなか便利に使えた。
日頃からニッカド電池をフル充電しておくこと。予備電池を用意しておくこと。
地震の翌日どのスーパーからも電池の姿は消えていた。
公衆電話も商用電源が止まるとテレホンカードが使えない。
3. その他のハード面に関する問題
アマチュア無線には多くのバンドが与えられているのに、今回の震災では一部のバンドに多数の局が集中し混乱をまねいた。他のバンドを有効に使う工夫が必要。
非常時、色々な人が共用して使うリグは、出来るだけシンプルで丈夫である事が必要。その点、今日のハンディ機はボタンが多く、操作が複雑で不向きな面がある。同様の理由からHF機は不向き。
局地的災害にHFは不向き。
多くのレピーターが商用電源が止まり利用出来なかった。
災害後リピーターの迅速な復旧、必要あれば移設を行い通信網の確保にあたる事が大切。
固定施設にたよらない通信方法を日頃から心得ておく必要がある。
架設容易なアンテナの工夫が必要。
ハンディ機は場所によっては使用不能であった。
ハンディ機にもう少しパワーがあれば良いのにと感じた。
便利な器機がたくさん有るのに上手に活用できていなかったと思う。
(X) 現行の法の下で
1. 非常時の資格制限の撤廃について
大災害など非常時は、電波法の枠を越えざるを得ない局面が多い。今回は曖昧なまま経過したが、非常時の電波法の超法規的運用を可能にするための検討をし、取り決めておかねばならない。
しかし、超法規的運用といえども無秩序にならないよう、統制の取れた運用方法を考える必要があり、無秩序を事前に防ぐ一法として、日頃から通信記録を正確にとる習慣を身につけることも大切だ。
超法規的処置が可能でも、無線は訓練を受けていない無資格者が使うべきでない。
現在のままでもアマチュア無線は災害時大いに役立っていると思う。
2. 組織間に共通のチャンネルの設置を
災害時に使われた通信系統を見たとき、救援、復興という同じ目的で活動しながら各々の組織が独立した通信系統を持ち、相互の連絡が無かった事は有名である。
防災、警察、消防、自衛隊、そしてアマチュア無線を含む各組織共通の連絡チャンネルを持てば全ゆる場面で効率的な協調体制が出来上がるであろう。救援物資を運んで来た自衛艦と受け入れ側との連絡にアマチュア無線が使われた事はハムの記憶に新しい。アマチュア無線をサブの情報交換チャンネルとして利用した組織もある。
行政とボランテイア組織が情報を共有しなければならなかった事が多く、その活動には防災無線などとの相互乗り入れの必要を感じた。
3. 非常通信連絡周波数の運用に関して検討が必要
和文CWでの通信は前時代的手法となりつつある現在、消防、警察にもこれを使える人材は非常に少ない。アマチュア無線界も同じくで、現場に居合わせた者が誰でも利用できる音声での通信に改めるべきだ。
各人が非常通信連絡周波数に出ることに自身を持つこと。
(Y) 日本アマチュア無線連盟(JARL)の活動
1. 初動は迅速に
JARLの8J3ABQで活動したが、もう少し早く開局出来ていれば、直後の最も困難だった状況下で更に大きな成果を上げることが出来たであろう。
JARLは初動を更に迅速に起こす努力をすべきだ。電話や他の通信システムが復旧してからアマチュア無線のボランテイア が入ってもその役割は小さい。
2. ボランテイアー活動
私はJARL局で活動したが、ここでは全ての人がボランテイアなので、24時間の内少しの時間しか活動できずもどかしかった。しかし、出来る限りの活動をした。
行政から市民に対する情報ボランテイアとしての意義を感じた。
今後も緊急時における連絡用基地局としてお役に立ちたい。
マスコミによる報道と、口こみによる情報の間を地域毎にうめるメデイアとしてハムの力が生かされると思う。
ハム仲間でボランテイア活動の方法を話し合った。
救援物資の輸送係として某特別局に所属したが、無線機の前にたむろして動こうとしないハム達に対し、物資の配分、配達に従事するボランティアからの避難の声が上がった。
3. 超法規的運用及び通信の統括
電気通信管理局、JARL関西地方本部、各府県JARL役員のご努力により、特別局の超法規的使用が可能になったことは非常に良かった。
アマチュア無線も大規模災害など緊急時には通信を統制し、能率的な交信のできる機能を備えなければならない。
通信をコントロールする機能を備えた統括局を地域、府県単位に設置し常時訓練をしておけばよい。
アマチュア無線を一対一の通信以上の活用に供する場合、情報及び運用の一元的コントロールが必要です。 一元的コントロールをどの組織がどのように行うかが真剣に検討されなければならない問題です。
各種団体でなくJARLがアマチュア無線活動を統括すべきである。
災害通信特別周波数の指定に際し、郵政大臣、郵政省、電気通信管理局、JARL間で連絡の不徹底があり、混乱の原因になったようだ。
非常通信はJARLが主導権をとるのではなく、それを必要とする地域の地域クラブに主導権をゆだねるべきだ。JARL兵庫県支部による非常通信運用の説明がなかった。
地域クラブより非常通信用のコールサインの通知を受けたが、日頃使っている自分のコールサインの方が知名度があるので、自分のコールサインで出た。
JARLより非常通信活動に参加の依頼があったが、 参加出来ず、個人的に災害に関するハム活動をした。
アマチュア無線による通信の確保は、それしか手段の無い場合は極めて有効で必要な通信手段です。ただし、緊急通信網の中での位置付け、役割を明確にし周知徹底した上で、日頃からの訓練をすべきだ。
兵庫県非常通信協議会でのアマチュア無線の出動順位は21番目です。この順位を上げる努力をしなければならない。
(Z) 行政の対応について
行政に対する組織的な通信バックアップに将来のアマチュア無線の活路がある。
区役所に出向き、アマチュア無線による連絡網開設の応援を申し入れたが何を頼めば良いか解らないと断られた。
この様な非常時であっても行政は前例主義で、常識的な判断すら下せなかった。
大災害時、官公庁は当てに出来ないとつくずく感じた。何よりも自分自身が強くなる事が大切だ。
役所や隣組にたよらず、自ら行動を起こさねば何事も進まないと良く解った。
行政の有する行政無線の使用に際し、非常の場合はハムが援助をすればどうか。無線機の取り扱い、非常電源 の活用、その他多くの面で協力出来るのではないか。
私は当時、市の〇〇局に務めており職場にもハムがいたため、アマチュア無線を業務の補助連絡手段に利用しようとしたが職権で禁止された。あのような非常時には、その使用目的によってはもう少し柔軟な対応が必要ではなかったか。
([)
備えと避難所
衣、食、住、連絡手段を備え必要時直ちに提供できる避難所の創設を。
避難所には必ず通信設備を(情報伝達、ボランティア活動の連絡、物資調達等)
各避難所に無線機と発電機の設置を。三木市では市指定の避難所に常時設置。
各公立学校(地域毎)に電池、発電機、ハンディ機、アンテナ等、非常時連絡用の器機の常備を。
(\) 携帯電話とインターネット
データ通信、モーバイルでの情報の交換は非常に有用だが、有線やプロバイダー経由の通信は災害時期待出来ない。そこでアマチュア無線によるネットワークを構築することが非常に有効だと思う。
有線の回復後はe-mailを多用した。正確で大量の情報を送ることができ便利だった。
今回は携帯電話は全滅だったが衛星電話が普及すれば通信手段は一変するであろう。しかし、長時間にわたる通信、頻回にわたる交信、多数局への同時送信、経済性等を考慮するとき、アマチュア無線には幾多の長所が
あると思う。