災害とアマチュア無線
阪神淡路大震災を患者と医師とアマチュア無線家の立場から検証する
東條純一(JH3AEF) 故田路嘉秀(JA3XZW)
被災妊産婦の声 詳報
今回は第二報でその骨子をご紹介した被災妊産婦の声を詳しくご報告することに
する。
参考とさせていただいたのは、1995年秋、兵庫県産婦人科医会、兵庫県医師会が実施した「阪神淡路大震災のストレスが妊産婦及び胎児に及ぼした影響に関する疫学的調査」による調査報告書(1996年3月刊行、母よ、あなたは強かった)、
同補遺(同年9月刊行、母ちゃんは地震に負けずにお前を産んだ)、大震災・母と子(1998年1月17日発行、阪神淡路大震災を体験した妊産婦373人の発言、)である。
この調査では、兵庫県下の全産科施設の協力をもとに、震災当日被災地に住み、震災当日から同年4月16日までの間に兵庫県下で出産した妊産婦を対象にアンケート調査が実施された。その中で(地震に限らず、大災害、風水害などの非常事態に際して、妊産婦に対する医療や援助などで、どのようなことを希望されますか)と設問され、この設問に対し寄せられた回答は実に1924通にのぼった。そして、その全てが前記補遺及び大震災・母と子に詳細に収録されている。
これら貴重な回答全てを精読し、筆者なりに咀嚼、分類、一部加筆し以下に記載した。
妊娠中の女性は自らの体調と自分を取りまく環境にはことのほか敏感であると共に、主治医とは定期的な検診を通じ、非常に密接に結ばれているものである。この様な点を考えるとき、その声は、極限状況に於ける人々の健康と医療に対する心の底からの声を如実に物語るものと言っても過言ではないであろう。
何と言っても困ったことは
電気、水道、ガス、電話、食料、主治医の診察は受けられるか、急いで医療施設まで行けるか、トイレの水、シャワー又は風呂、安心して休めプライバシーを保てるスペース、生まれてくるベビーのミルクは・・・・・
切実な声 1. 先ず情報
1 公的で強力な情報提供を。流言飛語があった。
2 個人電話は110,119を含み全て使用不能に陥った。
3 病医院の診療情報、応需状況、休診情報を即刻、繰り返し報知して。
4 医師会が大病院だけでなく、全医療機関の情報を即刻把握して、メデイアを通じて流せ。
5 重病患者や予約妊婦には医療機関側から患者に直接診療の状況を知らせて。
6 震災後4日間主治医の病院に電話がかからなかった。
7 各院は運用状況を発信して。
8 非常時かかりつけ医と確実に連絡のとれる方法は無いか。
9 空からの情報伝達の工夫を。
10 各地区に転院、医療情報、受診について相談窓口、相談電話の開設を。
切実な声 2. 即応可能な救護体制を
1 非常時の医療体制を確立し、それを一般に公開周知せよ。日頃よりそ運用訓練を。
2 普段から地域の病医院マップを(Tel.Fax.診療科入り)市民に配布せよ. 同時に災害時体制も明記公表せよ。
3 仮設診療所は事態発生直後より地区毎に稼働出来るように。
4 直後より何カ所かに分散して仮設病院(野戦病院的なもの)の開設を。
5 全ての医師が救援活動に出ず、地区住民の面倒をみる医師もいるべし。
6 地区医師会は緊急時の出動体制、残留体制を用意、日頃より稼働訓練をすべし。
7 非常時には地域の公共施設に地域の医師が出向き、地域住民を医療サイドから支えるシステムを作り、日頃より稼働訓練すべし。
8 医療スタッフの確保(医師、看護婦、助産婦等)、倒壊等で診療不可におちいった医療施設からの臨機応変な移動を。
9 自院が診療不能に陥った場合、主治医は患者と共に転院先に移動し治療に当たってほしい。
10 非常に多くの医師、看護婦、助産婦、保健婦、その他のスタッフを直ちに派遣出来るシステムを作れ。
11 日頃より少し離れた市区町村同士が姉妹関係を結び、全ての面で相互に援助しあえるシステムを作れば、複雑な手配や事務手続きが省略でき効率が上がる 。
12 最新の医療設備が使えなくなった場合に備え、簡素な診療機材で診療が出来るよう、日頃からのトレーニングとマニュアルを作るべし。
切実な声 3. 医療施設だけは壊れないで
1 災害に強い医療施設の建設を。
2 中核病院は災害に備え、水、燃料、薬品材料を備蓄し、自家発電、空調も維持出来る能力を確保すべし。
3 各病医院は非常電源の充実を。
4 いかなる状況下でも医療機関相互の連絡網の確保を。さらに、消防、救助隊、官庁とも共用出来る連絡網をもて。
5 震災後約10日間は診療可能な医療機関が少なく、大変な混雑をきわめ困った。
切実な声 4. 医療機関の連携と連絡
1 災害時、転院に際する医療情報の伝達は、医療機関同士が直接行ってほしい。
2 当該医療機関で応需不能でも無線等で病医院間が連絡を取って、適切な機関を探してほしい。患者が探すことは非常に困難。
3 分娩予約した医療機関が応需不能になった例で、病院探しに困難をきわめた。非常に多くから断られた。Tel.不通,
公衆電話長蛇、交通渋滞。普段より非常時マニュアルを作り周知徹底しておく事が大切。
4 全ての医療機関が災害時でも壊れない相互の連絡網を持ってほしい。
5 カルテ、病歴が災害時でも簡単確実に取り出せ、迅速に転送出来ることが必要。
6 緊急の場合、カルテの持ち出しが出来ないか検討を。
7 コンピューター化された病院業務を停電時でも動かせる工夫を。手動出来る工夫を。
8 転院出来たが、前医から病歴がもらえなかった。
9 転院先は紹介状が無いため受付けなかった。
10 かかりつけ医が休診の札を出したまま行方不明で困った。
11 非常時かかりつけ医に連絡が取れない場合を想定し、第二第三の連絡先又は連携可能な医療機関を日頃より明示すべし。
12 医療サイドに災害緊急時という認識がない。
13 病医院と避難所間に連絡システムを作れ。医師は出動し病院受診の患者が放 置された。
切実な声 5. こんな事で間に合うか
1 緊急自動車でさえ渋滞で動けなかった事への反省と改善策を。
2 電話が不通でも救急車が呼べるシステムが必要。
3 被災地脱出の輸送手段の確立を。
4 避難するための交通手段がない。
5 自家用車、バイク等の無い者は、病人や妊婦であっても20Km近くも徒歩で避難しなければならなかった。
6 負傷者、病人、妊婦を乗せた車の優先通行を。
7 ヘリコプター搬送の簡略化を。
切実な声 6. 次々と発生する困難への対応
1 避難所ごとに仮設診療所を。
2 ドクターカー(仮称)による巡回診療を。(仮設診療所の設置出来ない地域に)。また、内児、外科以外の特殊科の医師達(耳、目、産婦等々)の巡回を。
3 災害即外科的処置との発想でなく各科の対応が必要。
4 医療機関はその資料に従って重傷者、臨月の妊婦などに対し訪問診療をしてほしい。出来なければ電話訪問でも。
5 保健所はその資料に従って、ハイリスク群の患者や臨月の妊婦の巡回訪問をしてほいしい。
6 役所は痴呆や寝たきり老人のいる家庭の巡回訪問をしてほしい。
7 応需可能な病院を循環する受診専用で、最優先通行可能なバスを運行してほしい。
8 妊婦は病人でも老人でもないが第一級の弱者であり、一見外傷が無くても非常に危険な状態に陥っていることがあるという認識に乏しい。
9 重病人、介護の必要な老人、臨月の妊婦は最低限、衣食住が備わり、更にプライバシーの保てる避難場所に一刻も早い搬送を。
10 老人、弱者専用の避難所を。妊婦は一般の人達と同様に扱われ、妊娠している体への理解が足りなかった。
11 老人、乳幼児のいる家庭は専用の避難所を。
12 負傷、病気の対応に精一杯だが、心のケアーの出来るシステム作りも大切。
13 かかりつけでなくても親切な対応を。被災者は心の痛手が非常に強いものです。
14 地域毎に、からだや精神面の不安についての相談所、相談電話の開設を。
15 各地区に何でも相談の窓口、電話の開設を。
16 災害時は診療時間の撤廃を。
17 診察料を払う金が手元に無く受診出来なかった。
18 地域の援助のため、医療職をリタイヤーした人達、今、職についていない人達の協力をえボランテイアー集団をつくれ。
切実な声 7. 救援活動は始まったが
1 震災1日目おにぎり1/2個、2日目パン牛乳、3日目ジュースおにぎりパンが配られたが、乳幼児、病人、妊婦には適切で無かった。
2 水道復旧1.5ヶ月、ガス2ヶ月かかった。
3 地域社会で緊急時の避難場所の計画、援助物資の配布場所の計画、演習をすべし。
4 救援物資は何処で,何時、何を配布しているのか解らない。
5 救援物資として必要なのは食料や衣料品ばかりでない。適材を適量、適所に。
6 食料、衣料の援助は比較的早期から受けられたが、衛生用品、ベビーのミルク等の援助が遅れた。
7 老人介護、乳幼児、妊婦用品は一般救援物資と別に専用配布場所があると良い。
8 労働力(水運び、特にマンションの高層階等)、心の支えを援助されたかった。
9 カセットコンロの配給は便利で有り難かった。
10 救援物資の配布に地域格差、不平等があった。
11 手元に現金の用意が無く困った。
12 災害時医療の無料化を。
切実な声 8. 真面目に考えました
1 救急処置法、分娩知識を学校教育に取り入れよ。
2 まさかの時の救急処置法、お産の扱い方の知識の普及。
3 災害時の妊婦の心得、非常用品リスト、緊急連絡法を母子手帳に明記せよ。
4 報道用ヘリコプターの騒音が肉体的、精神的に非常な負担となった。避難や負傷者搬送に降りてきて欲しかった。
5 広い範囲を移動することができ、日常生活に必要な設備を有する大規模救難船、高度機能を有し多数の傷病者を収容、手術、処置できる大規模病院船を建造し国内数カ所に配備、被災最近地点に直ちに配船するようにしては。
6 被災直後、お腹の赤ちゃんの安否をどれだけ早く診てもらいたかったことか。
7 文明社会から瞬時にして全ての機能が失われた時、我々文明人は為すすべを知らない。
8 今回の震災では、従来の災害対策はあまりにも役立たなかった。
参考資料
母よ、あなたは強かった!!
阪神・淡路大震災のストレスが妊産婦および胎児に及ぼした影響に関する疫学的調 査調査報告書 1996年3月 発行
同 補遺
母ちゃんは地震に負けずにおまえを産んだ 1996年9月 発行
大震災・母と子 阪神・淡路大震災を体験した妊産婦373人の発言
1998年1月17日 発行
発行者 兵庫県産科婦人科学会・兵庫県医師会
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