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Dr.Toeの日曜日
電磁波と健康・医療機器


電力線搬送通信問題を探る

                             JH3AEF 東 條 純 一

電力線搬送通信、即ちPower Line CommunicationPLC)という言葉もようやく我々ハムの世界でも認識されだしたように感じる。
しかし、その概要は漠然としていてなお想像の閾を脱しない。

ことの発端は政府が提唱した規制緩和政策らしい。平成13年3月、政府は規制改革3ヵ年計画を閣議決定した。この改革案のひとつとして「電力線を通信媒体とした通信方式に関する法的規制の緩和の問題」が浮上し、総務省で検討されているところらしい。

現在、電力線に重畳を許された信号は450KHz以下で、一部のインターホーン等に利用されているのだが、これを一気に2−30MHzにまで拡大しようというのだ。アマチュア無線のHF帯そのものである。いったい何でまたと思ったら、インターネットの情報でHF帯の電波を変調し、電力線に重畳する通信方式を開発するのだそうである。高い周波数が必要なのは、通信の速度を上げるためだという。申すまでもなく電力線は津々浦々まで張り巡らされており、家庭内でも各部屋につながっている。確かに配線だけを考えればこれに勝るものは無いだろう。一種のLAN構想であるには違いない。

無線工学なんてハムの国試の時に一寸のぞいただけの私にも、問題の焦点はおぼろげに解ってきた。アマチュア局のアンテナから飛び出した電波が、かなり先のお宅のオーデイオを唸らせて、まずい思いをさせられたというお話には、ことのほか敏感なハム諸氏には、HF帯の信号が軒先の電力線から飛び出してくるなど、冗談もいい加減にしていただきたいと咄嗟に考えるであろう。

この要望を提出したのは、経団連、そしてなんと米国政府の熱い要望があるようだ。新しく開発される巨大な事業には莫大な利益がからむ。
規制緩和政策の一環ならば米国からの外圧があるのもうなずける。そして、この提案を規制する法律は電波法第100条施行規則第44,46条なのである。これらの規則は何と本来高周波を発射するものでない工業、医療機器が副次的に漏洩する電波のため、無線通信に
妨害を与えることを回避し、無線設備を保護するための規則なのである。このような目的の規則をもって、電力線搬送通信設備の型式指定条件の緩和を図れないかというのだから、何とも奇妙な話である。

ことの重大さをうけて最近、この計画の問題点にかかわる実験が各所で始められ、その結果が報告されだしている。平成13年電気関係学会四国支部連合大会では、詫間電波工業高専がPLCにおける電灯線からの放射電界強度の測定結果についての実験結果を、13年11月
にはJARL関西地方本部、大阪大学アマチュア無線クラブ及び有志による、PLCから漏洩する電波がアマチュア無線のHF帯にどの位の響を及ぼすのか、逆にアマ局が発射する電波がPLCにどの位の影響を与えるのかを検討する実証実験が、そして、14年1月には、JARL,(社)電波産業会合同によるPLCのデータ通信による漏洩電磁界の測定実験が実施報告されている。けれども、その結果は単純明快には結論の出せるものではないらしく、我々が容易に納得出来る結語の付されたものにはめぐり合わない。

我々ハムは、なけなしのパワーを一寸の漏洩も無いようにと同軸ケーブルを介してアンテナに送り込んでいる。これに対して電力線は全くの裸線、こんなものに高周波をのせれば、いたるところから電波の漏洩が起こるのではとの指摘は理解に難くない。時にはその長さが1/2波長であったり1波長であったり、はたまたビームがついたりと、いらぬ知識が難題を増幅する。電力線が地中に埋設されていたり、シールド線が使用されている諸外国とも環境は全く違っている。

米国ではすでに実施されているらしいが、あまり情報が伝わってこない。もっとも、国土の広さも電力の供給方式もあまりにも違いすぎて比較にならないのであろう。一方、部分的に解禁されているドイツではどうであろう。ドイツにしても電力線は地中に埋設されており、
国土も日本よりはるかに広い。そこで、ドイツ在住でMARSの会員でもある奈良OMに現地の状況を調べていただいた。実施されている地域は北部のヘッセン州、バーデンブルテンベルグ州の一部で、短波帯でかなりのノイズが発生しており、HFでの通信がやりにくい状況になっているとのことであった。やはり諸氏の指摘が現実のものとなる可能性は大いにありである。

平成13年6月11日、総務省電波環境課は本件に対して次のように発表している。即ち「電力線搬送通信の高度化に当たって使用する周波数帯域を2−30MHzまで拡大することにより、その周波数帯を使用しているアマチュア無線、船舶通信、短波放送受信等の既存の無線通信に対して影響を及ぼすことがあってはならない。このため、総務省では、e-Japan重点計画に示すように、まずは「放送その他の無線業務への影響について調査を行い」、その調査結果などを基に「その帯域の利用の可能性について見当」した上で、利用が可能であることが確認できた段階で必要に応じて技術基準の改正などに向けて取り組む」。また、6月21日には、衆議院総務委員会の電気通信役務利用放送法案に関する質疑で電力線搬送通信が取り上げられ、小坂総務副大臣は「船舶通信とか短波放送受信など、既存の無線通信に妨害を与えないことがあくまで前提」と答弁しいる。これらの発表を聞く限り、如何にも現存の通信の保護、確保に理解を示した文言のように聞こえはするが、その審議過程を充分に見極め、充分なる反論材料をそろえ、既得の権益の擁護に努めなければならない。

更にまた、高周波の信号は電灯線を通して直接家庭内、各施設内に侵入し、それに接続されている電気製品、電子機器に入り込み、各所で誤動作、故障の原因になり得ることが推測されるともいわれている。

携帯電話の電源のON,OFFがあれほど繰り返し注意され、量販店の出口にある盗難防止チェッカーでさえ、ペースメーカーを誤動作させる事実があるいまどき、CCU,ICU,に限らず、我々の診察室や病棟にある医療機器、測定機器、輸液ポンプ等々に対する影響は大丈夫なのであろうか。
また、今日では、医療施設にとどまらず、老人介護をはじめとして家庭内で使用される介護用機器、生命維持装置の数が急速に増大しつつある。
このような観点からすれば、これら機器に対する侵入高周波の影響の検討、対策は可能な限り速やかに、また細心の注意を払って行われなければならない。医業を職とし、また、ハムでもある我々が、今まさに声を大にして関係各方面に注意喚起の努力をすべき問題ではなかろうか。

1月にJARLの原会長からお電話をいただいた。JARLとしてもこの問題を最重要課題のひとつとして奔走しておられるとのことであった。
しかし、各種の科学的データをいくら政府のお役人達に示しても、もう一つ説得力が無くて困っているとのおおせでもあった。医療面からこれこれ云々の生命に危険を及ぼす重大問題だ、或いはこれこれの漏洩電磁波による危険な具体例があったといったお話があれば非常に説得力がるのだが、如何なものでしょうか。是非ご尽力をいただきたいとのお話であった。

私が現在まで目にした医療機器と電磁波に関する日本医師会としてのコメントは、日医誌に掲載された、携帯電話と医療機器に関するごく短い文章のみであったように記憶する。確か20センチメートル離していれば影響は無いとするものであったように思うのだが確認してみなければならない。PHSの出力は10mW,携帯電話では500mW,これに対して現在の電波法施行規則から試算されるPLCによる出力はおよそ170m,それも常時輻射されているのだから相当な影響力を覚悟しなければならない。

我々が個別に送信機を持ち出して、医療機器のそばで電波を発射してみても、決して説得力のあるデータは取れないであろうから、この際はPLCという新しいテクノロジーが開発検討されつつあり、それが場合によっては各種の医療機器に重大な影響を与えるやも知れぬゆえ、十分な検討をいただきたい」との要望を日本医師会或いは都道府県医師会に提出するのが適切な手段と考えるが如何なものであろうか。

積極的なご発言、提言をおまちいたします。

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