今日お生まれになった赤ちゃんS子ちゃんはピンク色のプリプリしたお肌をした、とっても元気の良い赤ちゃんです。
今日 いや、先ほど生まれたばかりなのにどうしてS子ちゃんなのですかですって?そうですよね、一寸気が早いような気も しますが、現在ではごく当たり前になった光景です。勿論その診断は妊娠の26〜28週になって超音波診断装置を使って くだされたもので、決して受精の段階でくだされたものではありません。
出生前に性別を診断する事には、今でも色々な 考え方があり、超音波診断装置を使って妊娠終盤に行われるものでさえ、とんでもないことだお考えの先生方も沢山 おいでになるようです。でもこの時期に求められる男ですか、女ですかの質問は、ご家族のごく自然で純粋な気持ちから発せられるものであって、全く他意はないのです。
女の子なら女の子のオベベを用意してというご家族の赤ちゃんを迎える 温かい心から出たごく自然な感情に違いありません。ですから、私は今では見えたらお教えしましょうね、生まれるまで 楽しみにしておきたい人は云ってくださいね、とごく自然に対応しています。
でも最初のころは、先生どっち?なんて聞か れたら、そのつどムッ−としていたものです。産科の宝刀でもある超音波診断装置は、もっと医学的に大事な事に使用 されるべきという考えが非常に強かったのかも知れません。今ではご家族の知りたいことは医学的にも大切な事と考える ようになったのも事実です。それとも私も歳を取って丸くなったのでしょうか。若い頃は間違う事を非常に恐れるあまりの 防御反応のあらわれだったのでしょうか。どれも当たっているような気がしますね。
ところでこのS子ちゃん、お母さんのお腹のなかではしょっちゅう赤信号を出してくれました。お母さんが陣痛発来で入院 なさってから分娩まで、監視装置がはずされることはありませんでした。とにかく何の前ぶれもなく「苦しいよ」が始まる のです。その度に助産師も医師も駆けつけては回復に努めました。お腹の中の赤ちゃんは母親とおへその緒(臍帯)で つながっています。勿論この臍帯をとうして母親から酸素や栄養をもらっているのです。それはあたかも、海底で仕事をする潜水夫が細い管をとうして海上から空気を送ってもらう光景そっくりです。その管が折れたり、どこかに巻きついて 空気が通わなくなれば、潜水夫は生きていくことができません。 お臍の緒も全く同じこと、ましてや母親の子宮の中という窮屈な環境に閉じ込められているのですから、臍の緒が圧迫 されたり、からまったりして、一瞬血液の流れが少なくなったり、遮断されることは想像に難くありません。
このようなこと が無いように子宮の中には羊水という水が満たされており、臍帯を圧迫から守っています。 その上、赤ちゃんの頭や体は、非常に窮屈な産道を陣痛という強い力で押し下げられ、圧迫を受けながら進んでくるのです。監視装置を使い管理していれば赤ちゃんの赤信号にも即座に対応できますが、妊娠期間の大部分、いや時間的には 全てと言える長い時間、赤ちゃんは何の管理も受けずに独りぼっちで成長を続け、時が来れば狭い産道を上手に通過 してこの世に飛び出し、教えもしないのに呼吸を始め、教えもしないのにお母さんのオッパイを生まれた直後からチュク チュクと飲み始めるのです。
何とも赤ちゃんの生命力、いやこの世への適応力は素晴らしいですね。