産婦人科医 Dr.Toeのeトピア
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Dr.Toeのeお産

案ずるよりも生むが易しか

誰でも知っている有名なコトワザですね。
ある時テレビを見ていますと有名な政治家が言っていました。「皆さん、この問題につきましてはね、色々と議論はありますがね、いざ実施してみればきっと皆さん、解ってもらえますよ。案ずるよりも生むが易しなんだから」 

そうです。使い方としてはこれで正解です。 でも、産科医である私は「一寸そのままでは良くないんじゃないの」、あるいは 「気軽にそんなこと言わないでよ」と言いたい気持ちです。

案ずるよりも生むが易し、されど皆同じならず。が 素直な気持ちでしょうか。

お産というものは、機が熟せば、お産の方からどんどんこちらに向かって近付いてくる、おせっかいな手出しは無用、というより、いらない手出しをすることによってかえって、その進行を誤らせる結果につながることもあるのです。

基本からじっくりと見につけた知識と、充分な経験を持った上で、なおかつ最も 信頼の置ける手段で現状を、時々刻々、確認しながら、向こうからやってくるのを待つ。この 基本線をはずさなければ、はずれなければ、案ずるよりも生むが易し間違いなしです。
あの大きなジャンボ機が、同じ形を取りながら、次から次へと安全に 飛行場に降りてくる様子と非常によく似ています。

しかし一寸お待ち下さい。そして、下の数字を見てください。
私達の施設での統計では約80%のお産は上の ようにお産の方から同じ形でやって来てくれています。でもあとの20%のお産では、少なくとも何等かの処置が必要とされ、適切に処置をした結果、母児ともに お元気に退院をしていただいているのです。 処置を必要とした20%の方々も、大部分は軽微な処置で快癒され、重症と判断 された方の割合は非常に少ないのが現状です。

けれども、どの方が重症になるの か、いつ重症に変わるのかの判断は非常に困難で、いかなる手法を用いても予知 することが困難なケースもあるのです。

往々にしてその変化は急激で突発的で、 しかも重篤なのが産科の特徴と言われています。ですから産科の医療施設では案ずるよりも生むが易しなどのんきに言ってはおれ ません。

適正な医療を心がけていれば、非常に不幸な転記をとることは先ず無い と言えるくらい稀(まれ)でしょう。でも、案ずるよりも生むが易しの80%に入れるよう、妊婦さんもご家族の方々も、産科医、助産師、スタッフ達の提言、 忠告に充分耳を傾けていただいて、本当に案ずるよりも生むが易しだったなと言え るよう努力していただきたいと思います。

確かに 80%の方々は、ご自身の努力もあり、医療スタッフもお手伝いして、大した 危険も無く赤ちゃんをお迎えになることができました。真におめでとうと申し上げます。

でも 40余年も産婦さんと苦労をともにしてきた私といたしましては、安全に、事無くお産を済まされたということと、生むが易しとは、正直言って全く 別のことだと思えるようになりました。 たとえ80%のなかで赤ちゃんをお迎えになった産婦さんも、更に20%のがわで 赤ちゃんをお迎えになった産婦さんはなおさら、安全にとか、多くの処置を必要と せずにとかではなく、妊娠中も分娩が始まってからも、全ての期間を通じて肉体的 にも、精神的にも言葉では表せない程のご苦労をされたこと思います。

案ずるよりは産むが易しなどとんでもないことです。私が素直に このように思えるようになったのはそう遠い過去のことではありません。

でもいま赤ちゃんがお生まれになり、そのピンク色の暖かくて優しい体をだっこ したとたん、オギャーオギャーの元気な泣き声を耳にしたとたん、今までの苦労が 全て吹っ飛んで消え去り、バラ色の幸せに包まれておられることでしょう。

本当におめでとう、おめでと う、お疲れさま。お疲れさま。我々スタッフもホット安心、祝福をお贈りいたしま す。          

お産って本当に素晴らしいものですね

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