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生理の悩み                  生理の悩み 見出しの頁へ

生理痛がひどくて困っています

古くて新しい問題という表現は少し的を射ていませんね。しかし、月経困難症や過多月経の問題は、やや、それに似た感覚があるようにも思えます。

戦中、戦後間もなくの時代には恐らく社会がこの問題を深刻に受け止める余裕すら無かったのだろうと思います。それ以前の時代には口にすらできない苦しい環境だったのだろうと考えますが想像の域を脱しません。

私が産婦人科の修練をはじめた昭和39年以来を振り返ってみても、治療法で大きな変化をもたらしたのは月経困難症や過多月経のためのホルモン療法が開発されたということだけのように記憶いたします。根本的には何も変わっていないといえば云いすぎでしょうか。

一方において現在でもなお生理痛に煩わされる女性はあまりにも多く、また、あまりにも日常的な出来事であり、一般的に疾病という考え方もうすく、ついつい真剣に対応されないまま、各人の処しかたに任されているのが現状のようです。

しかし、このように厄介な生理痛について厚生労働省が2002年におこなった調査では、生活に支障をきたす程の生理痛を有する女性は27%にのぼり、その労働損失はなんと1890億円にもなると試算しています。

一方、東京大学では都下においてさらに詳しい現状分析を実施しています。以下にその調査結果をお示しいたしましよう。

服薬について

生理痛を有する人の1/4が薬を服用し、その薬の87%は一般大衆薬が利用されています。生理痛のある人でお医者から投薬を受けている人はわずか2~3%と非常に少ないことがわかりました。また、服薬にかかわらず薬が全く効かない人も6%もいることが判明しました。

仕事との関係について

仕事との関係では、生理痛のため27%の人が仕事を休んだことがあると答え、20%の人は周囲から理解が得られない、40%の人はあまり理解が得られないと回答しています。すなわち、生理痛の悩みのある人の60%が周囲の人々の理解を得られないことに苦労されていることになります。これを労働損失の面からとらえますと、年間3781億円、治療費も含めると年間1兆円の国家的損失になると試算されまました。

医療機関を受診する人の状況

産婦人科を訪れる患者のうち生理痛を主訴として訪れる人の割合は12.2%でした。


生理痛の原因は

子宮内膜症26%  腺筋症3%  子宮筋腫17%  機能性(後で説明)54%

その他の原因少々となっています。

治療法としては 

薬物療法60% 外科的療法16% その他15.9%

治療の結果は

改善45% 不変53% 悪化2% と報告しています。


機能性という言葉

生理痛の原因のうち機能性という言葉が出てきましたが、この言葉の意味についてお話します。生理をおこしている臓器、すなわち子宮そのものと、それをとりまく組織や臓器に、姿かたちの上で何等の異常も見られないにもかかわらず起こって来る現象、すなわち、子宮が本来の動作をすることに伴って起こってくる状態を機能性に起こってくるといい、そのようにして起こる不都合(この場合痛み)を総称して機能性疼痛(痛み)と呼んでいます。
機能性月経困難症は若い世代の生理痛の半数以上を占め、初経から3年以内に発症し疼痛の多くは2日以内に消失するのを特徴とする。


生理痛への対処法


原因の半数以上を占める機能性月経痛にたいして

生理痛の原因の半分以上(54%)がこの機能性のものであることは先にもお話しいたしました。ならば、その機能性となる原因について個別に考えることにいたしましょう。
子宮の内腔では生理に向けて子宮内膜が徐々にその厚みを増してきます。その内膜からはプロスタグランデインというホルモンが分泌されるのですが、このプロスタグランデインは子宮筋を収縮させる働きがあります。このホルモンが何等かの理由で過剰に分泌されると子宮筋が必要以上に収縮し、そのため子宮内を走る交感神経が強く刺激され、痛みという症状を作り出すことになるのだと説明されています。


対処法 1 ホルモン療法(ピル)
ピルにより子宮内膜の増殖を抑える。結果としてプロスタグランデインの産生が減り、生理痛の主な原因となる子宮収縮が軽減されます。更に経血量が減少し不愉快な生理時のQOLが大幅に改善されます。その上、生理の周期が正確に保たれるようになり生理にともなう不愉快さが大幅に改善されます。本当にこの治療法は生理痛にたいして良いとこづくめと云っても過言ではありません。


対処法 2  消炎鎮痛剤

生理が始まる直前になりますと、子宮の内膜は充分に厚みを増し、いずれ剥がれ落ち生理となって子宮から排出されることになります。この頃には子宮そのもの、まわりの組織をも含めて炎症と浮腫が始まります。ここに発生してくる炎症性物質もまた、子宮筋や子宮筋内の血管を収縮させ痛みを起こさせる原因となります。この炎症を押さえ込む働きがあるのが消炎鎮痛剤の消炎の部分の働きです。

また、子宮内膜から産生されるプロスタグランデインが子宮を収縮させ疼痛を引き起こすことはすでにお話ししましたが、消炎鎮痛剤のなかには、このプロスタグランデインが作られることを阻害することにより痛みを防ぐ働きを持つものがあります。

一方、痛みを感じ取る脳中枢への痛みの伝達経路を抑制する働きが消炎鎮痛剤の鎮痛効果の側にあります。

以上、消炎鎮痛剤には三とうりの生理痛緩和効果が期待できます。

対処法 3 鎮痙剤

子宮は狭い出口を下にした袋状の器官です。生理が始まり一時に沢山の経血が狭い出口に押し寄せますと子宮口がその勢いでむりやり押し開かれるため、子宮頚部が必要以上に緊張し痙攣を起こし痛みを生ずるとされています。子宮は平滑筋という種類の筋肉でできており、この平滑筋の強すぎる収縮が痙攣です。この痙攣を緩和する薬剤、すなわち鎮痙剤を使用することにより疼痛を少なくすることができます。
お産を経験すれば生理痛は楽になる
生理痛はお産を境として次第に軽減したという話はよく聞きますし、実際に経験されている方も沢山おいでになると思います。お産を経験することにより子宮頚部が充分な広さに拡張するため、経産婦では経血の流通が容易になり生理痛の原因が無くなると考えられています。また、お産により子宮頚部の神経が切断され、この部分の痛覚が減退するためだとする説もあります。

対処法 4 利尿剤

前項で述べましたように生理が近付きますと子宮の周りに浮腫を生じてきます。この浮腫は炎症にもつながるもので、できることなら取ったほうが快適です。そのため、少量の利尿剤を利用することがあります。

対処法 5 止血剤

ある種の止血剤は月経血量の減少の働きがあり、そのことが生理痛の軽減につながると考えられています。



基礎疾患があるために起こる月経困難症、すなわち機質性月経困難症について
基礎疾患といいましても普通、月経困難症の原因となる疾病はそれほど数の多いものではなく、圧倒的に多く見られるのは子宮内膜症、他に、子宮筋腫があります。これ等の原因による月経困難症は次第に悪化するのが一つの特徴で、生理痛の期間も機能性の場合よりはるかに長期間続くのが特徴です。

これ等の疾患がある場合には、それぞれの疾患の治療を最優先に考えなければなりませんので、詳しくは別の機会にゆずることに致します。


今、生理痛でお悩みの貴女に

女なんだから仕方ないとあきらめている方、もう一つ手ごたえを感じられないまま市販の鎮痛剤で我慢している方、もう一段快適に生理の期間を過ごす為に、面倒がらずに一度産婦人科医に相談されることをお奨めいたします。

あなたの体調について正確にお話しいただくことにより、必ずあなたに最も適切なアドバイスや治療が受けられるものと信じます。

                  2011 02 月経困難症セミナー 大阪産婦人科医会講演 東京大学 大須賀 穰

                 2011 02 月経困難症、子宮内膜症 学術講演会 大分大学 楢原教授 他
                      2011 06 近畿産婦人科学会セミナー 月経困難症治療の最新情報 京都府立医大 北脇 城


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