こんにちでは薬局で妊娠の判定薬を買ってくればご家庭でも簡単に妊娠の判定ができるようになりました。医療機関でも生理が止まるか止まらないか前後の妊娠初期の診断には同様の判定薬を使います。この検査法は手技も簡単で判定にもさほど苦労はありません。しかし早合点は禁物です。この検査は、精子と卵子が一緒になった結果作られる特異なホルモンの分泌が始まったことのみを示しているのです。精子と卵子が一緒になった、つまり受精したことは確かなのですが、赤ちゃんが元気に育ってきていることまでを保証するものではありません。
赤ちゃんが元気にしていますと診断できるのは、尿の反応が陽性になってからさらに一週間から十日の後になります。超音波診断法(エコー検査、高い振動数の音を使った描画技術)により小さいながら胎児の姿が確認できるようになってからなのです。診断法の進歩により、妊娠の非常に早い時期から子宮内の様子が手に取るように見ることができるようになりました。特に胎児が元気にしているかどうかは胎児の心拍(心臓の拍動)の有無により診断します。正常な妊娠なら妊娠6週半ばにはこの心拍が子宮内に確認できるようになり、赤ちゃんがお元気ですとお話しできます。妊婦さんの生理の周期によりこの時期にも個人差があることもご理解ください。待ち遠しいことですが、この胎児心拍が確認できる日が来るまで赤ちゃんの元気を信じてしばらくのあいだ待ちましょう。
私はこのように待ち遠しい時期にあたる妊婦さんに次のようなお話をします。遠く遠くまでまっすぐにのびる田舎の一本道、今日は道のかなたの隣村に住むお母さんが貴女に会いに来る日です。電話がかかってきました「今出ましたよ」、すなわち尿の反応が陽性になりましたにあたります。一生懸命、道のかなたを見やる貴女には未だなにも見えません。「まだ来ないのかな、元気な顔を早くみたいな」、何十分待ったことでしょう。やっと黒いものが点と見えてきました。でも馬なのか、車なのか、人なのか全く見分けがつきません。また数分経ちました、やっと人の姿だと確認できるようになりました。またまた数分が過ぎました、懐かしいお母さんが急ぎ足で元気にこちらに向かって歩いてくるのが確かにわかるようになりました。一安心ですね。
同様にお腹のなかの赤ちゃんの様子も、妊娠の進行にしたがって少しづつ、少しづつ正確な情報が伝わってくるようになるのです。最初から全てのことが明らかになっているのでないことをご理解下さい。
ほとんどのかたは「おめでたです」の言葉を聞けば、すべて順調、10ヶ月先には当然のことのように可愛い赤ちゃんのお誕生を夢見られます。中には事情があっておめでたいとは言えない方もおいででしょうが、一寸お待ち下さい。
妊娠中には色々な落とし穴がひかえています。 お腹の中で妊娠がうまく続けられず流れ出てしまう状態で、妊娠22週未満のものを流産と呼んでいます。大部分が妊娠10週以前の妊娠の初期に起こります。待望の赤ちゃんを待ち望むご家族にとって、この「妊娠がうまくいっていないのでは」との医者の言葉ほどむごいものはありません。こう説明しなければならない医者にとっても、これほどつらいことはありません。しかし、現実は実に厳しいもので、全妊娠の15〜20%いや報告によってはそれ以上の割合で流産が起こっていることが医学的に証明されています。うっそー、会社のだれそれさんも、同窓の、、、ちゃんも、ご近所の、、、さんも、みな立派に出産しているのに、、、、、そうですよね、でも20%といえば10人妊娠して2人が流産する勘定です。びっくりするほどの高率です。
一寸詳しく説明しましょう。今回の生理はいつもと違い量が多かった、又ある時には、来ることは来たのだが少し予定より遅れてきたなど、それと気付かないうちに妊娠し、
ご本人の認識のないうちに、生理として片付けられてしまっている初期流産もかなりの数にのぼります。このようなものまで含めますと20%とかそれ以上という数字になってしまうのです。こうした説明を聞きますと流産は誰にでも起こりうるごくありふれた疾患だということが何となくお解りになったことでしょう。
その他にも、数の上では多くありませんがのんきにかまえていると恐ろしいことになってしまうケースがひそんでいます。体調には十分に注意を払いましょう。
「妊娠です」の診断は妊娠していますという意味であって、この先ずっと何事もなく進行していきますということまで保証したものではありません。 妊娠が進むに従って徐々に症状が現れだし、診断が可能になってくる危険な異常妊娠もあるということを決して忘れないで下さい。
不育症、胞状奇胎(ぶどうご)、子宮外妊娠などのような異常妊娠があるなかで、ご本人自身がとくに注意していなければならないのは子宮外妊娠でしょう。沢山ではないが赤黒いおりものがあるなと思っているうちに、急激な腹痛をおこすような場合、時間を無駄にすることなく受診することが大切です。かかりつけ医の診察が受けられない場合には、とにかく診察の受けられる医療機関で、経過を聞いてもらったうえ受診することが大切です。
機敏な行動が貴女を危険から救うことになるのです。
いま受診中の貴女、体にもし困った症状が突然起ったら、遠慮なく電話してください。時間を問わず相談に応じ、必要があれば診察を受けていただきます。私は、困った患者さんからの相談、診察依頼には万難を排し応ずることをモットーとしています。
しかし、異常を感じながら時間外や深夜まで放置して診療時間でないところで相談をしてこられる姿勢にはいささか違和感を禁じえません。
また、当院は救急指定の医療機関ではありませんので、私が院内にいない場合には診療に応需できない場合もあることをご理解下さい。そのような場合、症状が強く、時間的に待てない場合には、時間を無駄にすることなく診療可能な医療機関、又は救急車の利用をお奨めいたします。疾病によっては一刻を争う場合もあるのですから。