子宮頸癌ワクチンの安全性について
子宮頸癌ワクチンは安全な予防接種です
平成23年2月からの子宮頸癌ワクチン(以下HPVワクチンと略す)の公的接種が開始されるのを前に、日本産科婦人科学会(日本の産科学婦人科学を代表する学会)は、1月17日、表題ワクチンの安全性について以下のような要旨と説明を文書で発表した。
要旨
HPVワクチンは原因ウイルスのDNAを含まないため予防接種をすることにより感染をおこすことがない。主な副作用は局所の疼痛、発赤、腫脹であり安全性の高いワクチンといえる。
接種にあたっては、失神に注意するとともに、稀に起こりうる全身性副反応に対する適切な対応が重要である。
説明 わかりやすく箇条書きにしました。
HPVワクチンは子宮頸癌全体の60~70%の原因であるHPV 16, 18型の感染予防を目的としたもので、現在この2種だけに対応する(2価)もの(サーバリックス)と、その他にHPV6,11(これ等は子宮頸癌とは関係のない尖圭コンジロームという陰部に発生する良性のイボ発生の原因となる)にも対応する(4価)のもの(ガーダシルP)とがある。
2価のものはすでに国内認可がおりており、4価は認可待ちである。
両ワクチン共に世界100カ国以上ですでに認可されている。また、
2種類のワクチン共にHPVの本体であるウイルスDNAを含まないので感染の危険はない。
WHOのワクチンの安全性に関する世界諮問委員会は2007年6月、2種のHPVワクチンの安全性に大きな問題はないと結論を出し、2008年12月には4価ワクチンの市販後調査をレビユーしその結論に変化のないことを報告した。2009年4月、WHOは繰り返しその安全性について発表した。2010年5月、米国CDCは米国 FDAによるHPVワクチンに関する奨励を報告し、このワクチンの有害事象が対照群と比べて有意差が無く、奨励に変化のないことを述べている。(有意差がないという意味は、現在実施されている他の予防接種の安全性と変わりないという意味)
問題点があったとされる症例の検討では、局所症状、全身性症状ともに軽症~中等度で、頻度も対照ワクチン群とほぼ同程度であった。また、2価のワクチン、4価のワクチンの間の差も認められない。
全身性の副反応として注意すべき例は疼痛に対する迷走神経反射によると考えられる失神で思春期女子には多い特徴がある。接種後15~30分の観察を奨励している。
アナフィラキシーなど重篤なアレルギー反応は0.1%以下でまれである。他の対照とされたワクチン群と変わりない。しかし、使用されている材質のなかに天然ゴム(ラテックス)、酵母があるので、それらに過敏性ある人は注意しなければならない。
2価ワクチン国内後調査11万例からの死亡報告はない。
ワクチンに添加されているアジュバントによる自己免疫事象もB型肝炎ワクチンや一般若年女性における発現率と代わらない。
妊娠との関連性については明確な結論が得られている。海外臨床試験中に多数の妊娠例が報告されているが、その妊娠転帰(流産率、早産率、児の生下時体重や先天異常)について、いずれも対照群との間に有意さはない。
ワクチン接種は妊婦を対象とせず、接種中に妊娠が発生した場合は残りについては接種を延期する。
授乳中の接種は国内では有益性がある場合は接種としているが、海外では認められている。
以上を総合すると、HPVワクチンは安全性の高いワクチンであると結論できる。実施にあたっては一般的な注意事項、問診は当然であるが、接種後30分の観察を徹底し、アナフィラキシー様症状には適切な処置が行える準備が必要である。妊娠中は接種を延期するのが望ましい。
平成23年 1月 17日 日本産科婦人科学会 通達
Dr. ToeがHPVワクチンの接種をはじめてみて、皆様方がその安全性についていかに深刻にお考えになっておられるかがわかります。そして多くの人々はそれぞれの努力によって、その疑問を解決しようとされていることもよくわかります。現代は誰しもが認める情報社会です。テレビをはじめとするマスコミから、そして今日ではインターネットから情報を吸収される方が非常に多くなってきました。我々のところにおいでになる患者さんのなかには、プロである私でさえ舌をまくほど新しい知識を正確におもちの方々も少なくありません。
しかし、中には我々がついぞ聞いたことも無いような怪しげな情報をかたくなに信じられていて、その誤解を解くのに大変な時間と労力を要するケースもまた少なくないのです。人間とは一寸したきっかけでひき込まれてしまうと、なかなかその深淵から抜け出すことの出来ない弱点をもつ厄介な存在なのです。
医学をふくむ科学の世界で何か責任をもって意見を述べる場合、最も重要なことは、誰が、どういう研究機関が、いつ、どういう場所で、あるいはどういう学会で、また、どういった学会誌に、どういった裏づけをもとにその内容を発表したか、あるいは、されているか、が明記されていなければならないのです。
人間誰しもテレビやラジオにながれれば、新聞や雑誌で活字になっていれば、インターネットにながれれば、ついつい信じ込んでこんでしまいがちですが、上に述べました情報の根拠ということに今一度注意を払い、その情報の信頼性を自分なりに評価されることをお奨めいたします。
日本医師会生涯教育協力講座
「子宮頸癌予防の両輪:検診とワクチン」より
ワクチンの安全性に関する部分を抜粋
この予防ワクチンにより不妊症になったという報告はない。
このワクチンは不活化ワクチン(生きたウイルスを使ったものでない、ポリオや風疹ワクチンは生きたウイルスに手を加えて使用している)であるから、接種によりウイルスが体に入れられることは無い。
その安全度は季節性、新型インフルエンザの予防接種、B型肝炎、ジフテリア、破傷風、百日咳など現在実施されている予防接種と同等の安全性である。
現行のワクチンだけの接種でも子宮頸癌の発症は89%予防することが出来るが、検診を平行して受けることにより、89%の発症を防ぐことができる。
ワクチンは細胞診をうけ、その結果を見たうえで実施するのが賢明。
上に述べた検診及び予防接種の確実な実施で、出産年齢にある女性の
妊娠、出産機能は充分守ることができる。
ワクチンの実施は45才までが推奨対象となる。
予防接種後、失神を起こしたという報告がある。頻度は11/40万回、
21/60万回である。これは若年で多感な女性を対象にした予防接種であるために、受診者の血管神経系の反射により起こる減少で、必要以上に痛みや恐怖心をあおらないようにすることや、接種後15
-30分の
座位安静により発症頻度を少なくすることができ、日本小児科学会も推奨している。
自然感染による免疫力の獲得のほうが予防接種による免疫力の獲得より
強力な免疫力を得られるという人がいるがこれは間違いである。
人パピロマウイルスは自然感染免疫はできない。
人パピロマウイルス感染者は他の人に感染させる危険がある。
予防接種の接種間隔は現行のサーバリックスでは初回、一ヵ月後、初回
から六ヶ月後と定められているが、間隔が多少延びた場合でも追加免疫獲得力は認められる。
但し間隔を短くすることは認められない(ACIP)
日本医師会生涯教育協力講座 大阪大学大学院医学研究科教授 木村 正 2011年5月14日