子宮頸癌ワクチンの安全性について
子宮頸癌ワクチンに関する疑問・質問
この項は平成23年5月に開催された日本医師会生涯教育協力講座(産婦人科に限らず内科、その他の科の医師、医療関係者も参加)の出席者から出された質問とそれに対する回答を示し、皆様の理解にも役立てていただくため作成いたしました。
回答は関西医科大学産科学婦人科学神埼秀陽教授が監修され、大阪府医師会学術課が同年6月に発表したものです。
接種年令に関する質問
Q(質問)何歳で接種するのがよいですか
A(回答)初交前に接種したほうが予防効果は高いことと、ワクチンに対する免疫反応が思春期では特に良いことから、最も優先的に接種が奨励されるのは10~14才の女性である。
Q 成人の接種は有効ですか
A 10~14才の次に優先的に接種が奨励されるのは15~26才までの女性である。海外の大規模臨床試験においても有効性が認められている。特に性交未経験の女性では13才までの女性と同じく高いワクチン効果が見込まれる。
Q 何歳まで接種が可能(効果的)ですか
A これまでの臨床試験では45才までの年齢層でワクチンの有効性が証明されている。ワクチンに含まれている型のなかで、既に感染している型に対する治療的効果は全くないが、まだ感染していない型の将来の感染を予防することができる。すでに感染既往があるかもしれない15~45才の女性に対してcatch-up
vacctinationを行う場合にはこの点を充分に説明する必要がある。46才以上の女性での有効性は明らかでないため、接種は奨励されない。
Q 性行為の無い高齢者に接種する必要はありますか
A HPVの感染経路が性交渉であるため、感染を予防するワクチンの接種意義はない。とくに56才以上の女性はワクチンの免疫原性試験のデータもないため、接種の対象とはしない。
Q 性交後に接種しても効果がありますか
A 性交後でもHPV感染が無ければ有効である。海外のガイドラインでは、既往感染者や子宮頚部細胞診陽性者に対してもワクチンが害となる
ことはないので、接種に際して子宮頚部細胞診やHPV検査を義務づけてはいない。これ等の女性に対してもまだ感染していない型の感染を予防することが期待できる点では接種
する価値はあるので、希望があれば接種してもよいが、充分な説明は必要である。
生理日と接種に関する質問
Q 生理中でもワクチン接種はできますか?
A 生理日だから接種が出来ないという直接的な因果関係はない。しかし、別項でも述べたように、このワクチンを受ける対象者が、非常に繊細な精神状態にある年頃(中1~高1)の女性であるため、生理中という貧血傾向の出やすい期間は接種をひかえ、立ちくらみなど
脳貧血症状の発生を出来るだけ少なくしようという配慮がなされています。
有効性に関する質問
Q ワクチンを行えば100%安心ですか?どのくらいの予防の可能性があるのか?
A ワクチンによる子宮頸癌発症予防効果は100%ではない。サーバリックスによるワクチン効果は基本的にはHPV16/18型の感染に限って認められる(ただし、HPV31,33,45型に対しても交差反応による予防効果がいくらか期待できるという報告がある)。臨床試験では、HPV16/18による感染の予防効果と前癌病変発生の予防効果は100%に近いが、わが国における子宮頸癌でのHPV16/18の検出頻度から推計すると、ワクチンの普及によって、約60~70%を予防することができると推定される。
副反応に関する質問
Q 副反応について、どのような副反応がありますか?
A 国内臨床試験では、局所の副反応として疼痛(99.0%)、発赤(88.2%)、腫脹(78.8%)が認められている。全身性の副反応としては、疲労(57.7%)、筋痛(45.3%)、頭痛(37.9%)、胃腸症状(24.7%)、関節痛(20.3%)発疹(5.6%)、発熱(5.6%)、蕁麻疹(2.6%)が認められている。ただし、接種スケジュールの変更や中止を必要とするほどの有害事象は少ない。
Q 接種時の痛みで失神するのか?
A 筋肉注射による血管迷走神経反射によって、失神や転倒を起こす可能性がある。サーバリックスの市販後調査においても、特に若年女性において、接種後の失神、失神寸前の状態、意識消失、神経原性ショックなどが報告されており、その中には失神後に転倒して打撲やコブができる等の報告もあった。過去に注射によって気分が悪くなった経験があったり、接種前から不安で緊張しているような女性については、臥位で接種することを考慮すべきである。また、接種後の失神による転倒リスクを避けるため、30分程度は院内で座らせるなどした上で異常が無いことを確認してから帰宅させるべきである。
Q 妊娠能力が低下すると聞いたのですけど本当ですか?
A 現在までに、サーバリックス接種により不妊症になった報告例はない。サーバリックスのアジュバントにはweb上でも書かれている「ポリソルベート80」は含まれていない。また、「ポリソルベート80」と不妊症の関連についても、明確な見解が示されているわけでもない。
Q web上では「インドでは子宮頸癌予防ワクチンの使用が中止されている」とあるがほんとうか?
A そのような事実はない。ワクチン使用の中止ではなく、インドにおける市販後の試験の進行が一時保留となっている。保留になった理由は、この試験において4例の死亡例が報告されワクチンが原因と報道されたが、この報道は事実でないことを国民に理解させるため試験を中断している。この4例の死亡はワクチン接種とは関係はなく、中毒、溺死、原因不明の熱のためと公表されている。
Q web上では「イギリスで数千例の副作用が発生している」とあるが本当か?
A イギリスにおける全ての予防接種の副作用報告はMHRA(英国医薬品庁)により定期的に公表されている、2010年7月に発表された最終報告によれば、2010年7月までに400万回以上の接種が行われ、4445例、9673件の副作用報告が受理されているが、この間に新たなリスクは特定されず、安全性に問題はないと結論されている。
Q サーバリックス接種によりイギリスの少女が死亡したと聞いたが、死亡例があるのか?
A イギリスの14才の女性の女性の死因は、患っていた胸部の悪性腫瘍によるものであり、ワクチン接種との因果関係は否定されている。また、その他の死亡例も交通事故、自殺などによるものであり、ワクチン接種と死亡についての直接的な関連は否定されている。
Q アジュバンドで癌化が促進されるのか?
A サーバリックス接種によって子宮頸癌が発生したという報告はない。このワクチンでは既感染者に対する治療的効果は全くないのでHPVの排除や感染持続において良くも悪くも影響を及ぼさないことが示唆されている。また、その他の癌発症との関連を示唆する報告は無い。
公費助成制度に関する質問
Q なぜ高校1年生までで、それ以上の年令の助成に無料接種してもらえないか?また、大学生などには今後も助成はないのか?
A 最も優先的に接種が奨励される年代に関してのみ公費による補助がでており、現時点ではそれ以上の年令の大学生や成人女性にまで公費助成が拡大される見通しはない。
予防効果持続期間に関する質問
Q 予防接種を3回行って、何年間有効なのか? また、一生予防できるのか?
A 現在のところ、サーバリックスにおいてHPR16/18型の両方に対する中和抗体は少なくとも8.4年間は維持されることが確認されており、
かなりの長期間効果が持続すると期待されている。サーバリックスの6.4年間の抗体価におけるシュミレーションでは、HPV16/18型の両方に対する中和抗体価は20年以上
感染予防可能なレベルを維持出来ると報告されている。サーバリックスの長期予防効果に関しての試験は継続中であり、今後も随時結果が報告される。
Q 検診(子宮頚部細胞診)とワクチンは同時に行うのでしょうか?
A 既往HPV感染者や子宮頚部細胞診陽性者に対してもワクチンが害となることはないので、海外ガイドラインでは接種に際し子宮頚部細胞診
やHPV検査を義務づけていない。特に公費助成の対象となる中学生、高校生に関しては、希望がなければ検診を行う必要はない。しかしながら、ワクチン接種ですべての
子宮頸癌を予防できないことも明らかであり、特に性交経験のある女性ではワクチン接種の有無にかかわらず、必ず子宮頸癌の検診を定期的に受ける必要がある。
Q 子宮癌検診を学校からするのでしょうか?
A 中学校、高校で子宮癌検診を行うことはない。検診受診可能な医療機関は市町村のHPに掲載されており、20才以上の助成に対する子宮癌検診
費用助成制度も同時に広報されている。
Q 4価ワクチンのほうが良いのか?
A 現在本邦で使用可能なワクチンはサーバリックスのみであり、4価ワクチンといわれるガーダシルは、子宮頸癌予防に関してはサーバリックスと
同様の16/18型の2つのHPV型の感染予防に加えて、良性疾患であるコンジローマの原因となる6/11型の感染も予防できるとされている。それぞれのワクチンに使用されている
アジュバントが異なるため、2つのワクチンを比較した試験では有意にサーバリックスの抗体価が高く、HPV16/18型の両方に対する中和抗体価の長期データはサーバリックスの
8.4年間が最長である。しかし現時点では、疫学的に子宮頸癌発生予防にどちらがより有用であるかという点については、明確な結論は得られていない。
この四価のワクチン”ガーダシル”も平成23年9月15日に認可され使用が可能となりました。
従って現在日本国内で使用することの出来る子宮頸癌予防ワクチンは、サーバリックス、ガーダシルの二種類です。
Q テレビなどで ”子宮頸癌ワクチンには種類があります”と言っているが?
A 上にも述べましたように、現在わが国で使用可能な子宮頸癌ワクチンにはサーバリックスとガーダシルの二種類が有ります。どちらも
子宮頸癌を高い確率で引き起こす原因となるHPV16と18に対する感染予防効果があります。
一方、ガーダシルはそれ以外に外陰部に出来るイボの一種であるコンジローマの
発症原因となる HPV 6,11型の感染も予防できるとされています。
しかし、これ等の予防接種の大切な役割は、女性の一生を大きく左右する子宮頸癌の予防というところに ありますので、その点から考えますとどちらを選択されても大きな差はありません。
病気を予防するという面から同じするなら四種類の方が有利と考えられなくもありませんが、厚生労働省による認可の時間差もあり、わが国では先ず二種類、16,18番のウイルスに有効な(=二価)のサーバ
リックスでこの事業が始まり、一年数か月遅れて四種類(=四価)のガーダシルの使用も認められたという事情があり、サーバリックスで始めた方はサーバリックスで完結
しなければならないというのが実情です。両ワクチンはそれぞれに使用されている薬剤に異なる部分があり、途中から他種ワクチンに乗り換えることは出来ません。
公的接種により国、地方自治体から医療機関に支払われる金額にも差は有りません。
ここでDr.Toeが感じたこと
公的接種の場合、実施後いち早く接種を受けられた方々には、「正直者が馬鹿を見た」という感じをお受けになるかも知れませんが、頸癌予防の面からは何等優劣はありませんので、安心して世の流れとご理解下さい。
製薬会社の広告(情報開示)に関しては、その薬剤が公的接種に使用されるものである場合、被接種者に無用の不安を与えないよう格段の配慮が求められるのではないでしょうか。経営感覚むき出しで公的事業にかかわっているという意識の希薄さを感じずにはいられません。
Q ワクチンの有無の問い合わせ(供給不足)
A 2012年 6月時点で供給不足は解消されています。
Q 2回目、3回目の接種が遅れても大丈夫か? そのときの接種回数は?
A アメリカの予防接種諮問委員会(ACIP)の公式見解によると、「ワクチンは可能な限り既定の接種スケジュールで接種されるべきである。奨励される回数を接種されなければ、期待される予防効果は得られないが、接種間隔が既定のスケジュールより延びてしまっても抗体価が減少することはない。接種間隔があいても1回目から接種しなおす必要はない」とある。抗体価のデータは「0,1,6ヶ月」スケジュールが「0,2,6ヶ月」や「0,1,12ヶ月」にずれた場合でも十分な免疫原性と忍容性が獲得できる事が確認されている。
Q 回数と間隔はきっちりと守らないとだめなのか?
A 既定の接種スケジュールよりも短い間隔で接種した場合は、十分な抗体の上昇が期待できない。むしろ、既定の接種スケジュールよりも短い間隔で接種しないよう注意が必要である(サーバリックスは1回目と2回目は最低4週間、2回目と3回目は最低16週間の間隔を置くことが奨励される。また、1回目の接種と3回目の接種は少なくとも24週間あけることが望ましい。
Q 異形成の方では円錐切除術を受けても、また異形成になることはあるのか?
A 円形切除後のワクチン接種に関する十分なエビデンスはない。子宮頸癌は扁平上皮と円柱上皮の接合部である扁平円柱上皮境界(suquamo-columnar
junction : scj)にある幹細胞(予備細胞 : reserve cell)に多く発生する。円錐切除術ではこの scj を切除するので、基本的にはターゲットとなる細胞がなくなる。しかし、HPVは子宮頚部扁平上皮の微細な傷から浸入して、基底細胞に感染するのがスタートである。したがって、scj
が切除されていたとしても、再感染は起こり得る。従来の欧米の報告では、円錐切除後に再度異形成以上となり再手術にいたる例は6~7%とされている。
Q 子宮頸癌になった後でもワクチンは効果があるのか?
A HPVワクチンは、中和抗体を誘導することによってH
PVが細胞に感染する前に感染をブロックして予防する。したがって、すでに成立した感染に対する治療的効果は全くない。子宮頚部病変やHPV感染を治癒させるものではないことをよく説明する必要がある。
Q 男性に対するワクチンは無効か?
A 手から性器への感染もあり、マスターベーションで自身の手から性器へ感染することもあるためコンドームを使用しても100%の予防効果は無い。そのため、子宮頸癌を予防することが目的であれば女性が接種する必要がある。発癌性HPVによって起こされる肛門癌、直腸癌の一部、外陰癌、膣癌、喉頭癌、食道癌の一部などの他、、癌のリスクを軽減するという意味では男性の接種も有用と考えられるが、現在のところは適応が承認されていない。
Q 妊娠、授乳期のワクチンはどうしたらよいか?
A 妊娠中に接種する有効性、安全性が確立していないため、妊婦には接種しない。しかし、ワクチンが妊娠や胎児に影響を及ぼすことを示すデータがあるわけではない。ワクチン接種中に妊娠した女性のデータでは、自然流産、新生児死亡、先天奇形などの発生率はワクチン群とプラセボウ群のあいだで全く差がない。米国のガイドラインではワクチン接種後に妊娠が判明した場合でも人工妊娠中絶の必要はないとしている。最初のワクチン接種後に妊娠が判明した場合は、それ以降のワクチン接種は分娩後におこない、授乳婦については、ワクチン接種の有益性が危険性を上回ると判断される場合にワクチンを接種できる。なお米国ガイドラインでは、授乳期も接種可能とされている。
日本医師会生涯教育協力講座 大阪大学大学院医学研究科教授 木村 正 2011年5月14日
大阪府医師会 学術課 2011年 6月
MSD K.K(ワクチンを製造販売している製薬会社)産婦人科相談係 2012年 7月 Tel 0120 024 963