その時、何が起こるのでしょう。それはSEXを介してパピローマウイルスという目にも見えない微生物が貴女の体にうつされることに始まります。そしてこのウイルスは貴女の
子宮の入り口を覆う扁平上皮にある小さな傷口(シンデカン)からさらに深層に侵入を開始します。わかり易くいえば、貴女の体に浸入した目に見えないウイルスが、
子宮頸癌の発生に重要な役割を果たすのです。
このウイルスの侵入を受けた人すべてが子宮頸癌になるのではありません。感染が原因で癌が発病する割合は0.15%, 1000人が感染をうけると2人弱の人が癌になる危険度に
なります。
逆に、ウイルスさえ浸入してこなければ子宮頸癌になることは先ずないとも言えます。 となりますと、この癌をおこすウイルスが体に入ってくるのを予防することが一番です。どうしましょう。
単純にはSEXがないのが最も確実ですね。でも、そういうわけにはゆきません。SEXのある生活がいつから始まるのが良いのかはなかなか難しい問題です。
ただ、日本の現状では、東京都の女子高校生はその40~50%が高校時代に経験済みと、またある地方では中1の初交率は0.9%、高3で43.3%報告されています。その前に何等かの予防処置がとられなければなりません。性感染症の
予防だけではなく、子宮頸癌の原因になりうるウイルスの浸入を防ぐ意味でのコンドームの使用についても、早い時期(中学在学中)からのしっかりした性教育が必要です。ただコンドームの使用は緊急避難処置以外の何物でもありません。また、この人パピローマウイルスにコンドームは無力とする意見も多いのです。
それでは、確実にそして一生(理想的には)このウイルスの浸入を防止する手立てはないのでしょうか? それがあるのです。
予防注射で原因ウイルスの浸入を防ぐことができます。 全く新しい方法で、世界中で使用が始まっています。日本でも今年(2009)10月厚生労働省の認可がおりました。ウイルス
感染が子宮頸癌の発生の原因になることを証明したドイツのフォンハウゼン先生はその功績により昨年ノーベル賞を受けておられます。ですから、このお話しは眉唾でも何でも
ありません。
日本で接種が認可されたのは現在(2010年3月現在)一種類(二価のワクチン、詳しくは後に説明)だけです。
平成23年9月15日より新たに4価のワクチンが承認を受け使用可能になりました。ただ当初は供給不足が起こる可能性があります。
さて、具体的なお話をいたしましょう。麻疹(はしか)や風疹もそれぞれの病気を起こすウイルスの感染によって発病します。これを食い止めるには予防接種を受けますね。
全く同じように子宮頸癌を起こす原因になっているウイルスに対する予防接種をすればよいのです。そのように便利な(頼りがいのある)予防注射ができており、各国で接種が
始まっています。 予防接種の効果は6年間継続するところまでは確認が済んでいますが、このワクチンの歴史があさいため、それ以上長期の継続性については確認がとれていません。ただ、この
予防接種の免疫力は非常に強く、一度接種すれば生涯持続するだろうと考えられています。
一方、発癌に関与するウイルスにも多くの種類がありますので、予防接種だけによる頸癌の予防効果は70~80%と考えられています。予防接種をしたうえで定期的な子宮癌検診もうけることに
より、子宮頸癌にたいする予防効果は90%以上になると考えられています。
子宮頸癌の予防効率という考え方もあり、85%の人が予防接種をうけ、その85%の人が検診を定期的に受けた場合、
95%の減病効果があると考えられています。子宮頸癌がこの世の中から劇的に減少するということも夢ではなくなりつつあります。
この予防接種の効果の持続性については、予防接種によって体内に作られる抗体の値は時間と共に低下の傾向をたどりますが、病変に対する予防効果は十分に維持され続けると考えられています。
また、麻疹や風疹などはその病気に罹患することによっても体に抗体がつくられ、予防接種を受けたのと同様に病気に対する抵抗力がつくことはよく知られています。
しかし、子宮頸癌を引き起こすパピローマウイルスの場合、自然感染による免疫力はつきにくいことがわかっています。
今までSEXの経験のなかった方は直ちに予防接種を受けることが望まれます。
SEXを経験したことのあるかたは、体内に頸癌の原因になるパピローマウイルスが いるかいないかの検査をお受けになることをおすすめします。検査は子宮の入り口
(子宮頸管)からの検体採取で簡単に可能です。何等苦痛のある検査ではなく、ごく短時間(2~3分)で終了します。検査はいまのところ健康保険の 適用がありませんので¥4000の実費が必要です。(細胞診で異常のある場合は保険が適用されるようになりました)
たとえある種のパピローマウイルスが入っていても、予防接種には数種のウイルスに
対する予防効果がありますので、予防接種をお受けになることをお奨めします。
注意は必要ですが絶望的になる必要はありません。人の体にはどなたにも免疫応答能と呼ばれる、体の外部からの攻撃に対応する機能があり、大部分(
約90%)の有害感染を 排除してくれています。
少し話は本筋から離れますが、この有害感染排除機能は健康体であれば100%発揮されます。しかし、タバコを吸う人は喫煙量が多くなるほど排除機能の低下を招くというデータが出ています。全く場違いなお話しになりましたが、頸癌を避ける意味でも禁煙をおすすめ下さい。この現象は受動喫煙でも同様のデータが出ています。
一方、ウイルス感染から癌化への過程は各人の遺伝的因子が大きくかかわっていると考えられています。
さて、話しを本題にもどします。
残りの10%の方たちにはウイルス感染が存続し、子宮頚部の細胞に長時間をかけながら異常を起こし始めます。
この異常は進行程度に従ってCIN 1,CIN 2,CIN 3と分類されています。
CIN 1, CIN 2まで(病変が初期段階)の場合、83~88%の人が正常に戻ります。
何故かと云いますと、この段階ではパピローマウイルスが子宮頚部細胞の染色体にまで
まだ入り込んでいない状態で、細胞が大きく破壊されることがないためなのです。
CIN 1から子宮頸癌に進行する割合は0.3%です。
CIN 3の状態まで進みますと子宮頸部の細胞に高度の異常がみられるようになり 30~60%の割合で上皮内癌の状態を経てやがて 子宮頸癌に進行します。CIN
3から
子宮頸癌に進行するのは40数%という結果が得られています。
これは、パピローマウイルスのある種の蛋白質が、細胞内にある癌化を阻止する働きの
ある蛋白質を破壊してしまうからだということが明らかにされています。
治療が必要なのはCIN 3からです。
それでも、CIN 3の状態で見つかり、直ちに治療を受けた場合、99.4~99.6%が根治します。
以上の話からおわかりになるように、例えパピローマウイルスの感染を受け、そのウイルスが体の防御機能によっても容易に排除されず、感染が持続する状態になってしまっても、
定期的に(少なくとも3ヶ月に1回)子宮頸部の細胞検査を続けることにより、高い割合で癌化を早期に見つけることができ、子宮頸癌発病のごくごく初期の段階での治療が可能に
なるのです。
子宮頸癌の細胞診について確認しておかなければいけないことが一つあります。いわゆる自己検診法というものがあります。自分で綿棒を使い帯下を採取し検査所に郵送して検査してもらう方法です。この方法は全く当てにならないことを認識して下さい。この検査の
感度は医療機関が実施する正確な細胞診に比較して1/50とされ検査をする意味が無いに等しいことが証明されています。
発病初期での治療は、子宮そのものの機能を損なうことなく完治をもたらし、 治療が終われば、再び妊娠や出産も可能な体にもどることができます。
少し専門的になりますが、子宮頸癌の病状の進行程度を表す段階にstage1a1という脈管侵襲にまで至らないごく早期の時期があります。この時期であれば、子宮頚部(子宮の入り口)を円錐状に削り取る(conization)だけの簡単な手術で頸癌を完治することができるのです。
それよりもやや病状が進行し、脈管侵襲をおこしたstage1a1~1b1という時期に達した場合でも、最近では広汎性頚部子宮摘出術という手術術式により女性の妊娠能力を温存することを追求する努力が続けられています。(1b2以上に進行したものは子宮全て、そしてその周辺組織を取ってしまわなければなりません。)
とは申しましても、子宮頸癌にかからぬこと、検診による早期発見が何にも勝ります。
歳をとったら検診を始め ますでは遅すぎます。
まとめ 子宮頸癌にかからぬために
予防接種を受けよう(性初体験前が最適)早い国では9歳、日本
では10才以上に接種が認可されています。
性交渉があり、すでにウイルスに感染している方も予防接種を受けましょう。予防接種は数種のウイルスの感染を予防してくれるため、今、体内に侵入していないウイルスに対する予防効果を期待できます。
性交渉があり、ウイルスの感染をすでに受けている人は厳重な定期的子宮癌検診を受けましょう。若い年齢層ほど大切。癌年齢になってからでは遅すぎます。
若い貴女、いますぐ行動をおこしてください。 女のお子さんをお持ちのお母さんたち、大事なお嬢さんたちが始めての性体験を持つ前に予防接種を受けさせてあげて
ください。
第一の接種奨励対象者は11才~14才の女児、国外では9才からも。
第二の接種奨励対象者は15才~45才の女性
55才までの安全性と有効性が確認されています。
さて、SEXによって病気の原因をうつされると言いますと梅毒、淋病、クラミジアといった性病(性感染症、STD)と同じように考えられがちですね。しかし、子宮頸癌の場合は
ウイルスをうつされても必ず全員が発病するのではありません。そのため子宮頸癌はSEXを介して感染したウイルスにより発病することは確かですが性感染症とはよびません。
ウイルスについてもう少し詳しくお話ししましょう。 ここまでは単にウイルス、または、パピローマウイルスと言ってきました。
しかし、ウイルスには非常に多くの種類が あり、それぞれ別個のウイルスが麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、日本脳炎、感染性胃腸炎、インフルエンザ、小児麻痺、肝炎、
ヒトT細胞性白血病、狂犬病など、まだまだ
多くの種類の病気発病の原因となっています。このウイルスを専門的に研究するだけで、ウイルス学という大きな学問体系が出来ているほどです。
その中で子宮頸癌にかかわるウイルスはパピローマウイルスと呼ばれる種類に属します。このウイルスは人にしか感染しません。そのため一般的にはヒトパピローマウイルス
(human papilloma virus)略してHPVと呼んでいます。
このHPVにも100以上の種類があり、それぞれに1番から100何番まで型番号がつけられています。子宮頸癌を引き起こす原因になるのは16,18,31,33,35,42,55,58,62型など15種(ハイリスク
タイプ)であることがわかっており、世界的には16,18が最も高率にかかわっています。しかし、国により多少の差があることもわかってきました。
日本人20~30才代女性では18型が最も多く、16型と合わせると約80%に達します。次に感染率の高いのは52、58となっています。
今回認可されたワクチンはこの16,18型に対してつくられたワクチンです。
16,18二種類のHPVを予防する効果のあるワクチンを2価のワクチンとよびます。
一方、6,11,16,18四種のHPVを予防する効果のあるワクチンを4価のワクチンとよびます。6,11番が加わることにより尖圭コンジローム、外陰癌、膣癌に対する予防効果が加わります。ただこれらの癌は婦人科癌の3%程度です。このワクチンは認可待ちでしたが、
平成23年9月15日に認可がおり接種可能になりました。
貴女自身が、貴女のボーイフレンドが、主人が、家族が不幸にならないため
子宮頸癌、日本ではこの病気で1日7人の方が亡くなり、世界では年間50万人の方がこの病気で亡くなっています。 ちょっとした自分の体への気遣いでこの不幸から開放されます。
もう一度子宮頸癌についておさらえしましょう。
子宮頸癌は予防注射で予防できます。
検診により子宮頸癌を発症する危険度の高い状態にある人、逆に発症しにくい人も見分けられます。
検診により苦痛無く前癌状態、初期癌を見つけることができます。
早期発見できるため、体に大きな侵襲を加えることなく完全に治癒させることができます。従って治療後も妊娠したり、出産したりが可能です。
3回接種(2価は初回接種後1ヶ月、6ヶ月、4価は2ヶ月、6ヶ月)が正規の接種法です。
毎回上腕三角筋に筋肉内注射します。
HPV感染のある人が接種を受ける場合も、副反応が増強したり、病変が進行する心配はありません。
特別問題視されるような副作用はありません。
妊娠している人の場合、妊娠に対する悪影響は認められていませんが、日本国内では
現段階では安全性が充分確認されていません。したがって、妊娠していないときに
接種されることをお奨めいたします。
また、接種の途中で妊娠してしまった場合には、続きは分娩終了後接種することが
望ましいとされています。
妊娠していることがわからず接種をはじめた場合にも、妊娠を中絶することはありま
せん。ただ、続きは妊娠終了後に延期することが望ましいとされています。
授乳中の方の接種は赤ちゃんにたいする安全性が確立していませんので、離乳後に
延ばされたほうが賢明です。なお、米国では授乳中も可能とされています。
免疫不全にかかわる病気のある方への接種は特別な配慮が必要ですので、必ず医師に
その旨申し出てご相談下さい。
女児に接種するケースが多くなりますが、女児は血管迷走神経系の反応が過敏な場合
が多く、卒倒するケースがあるので、座って接種を受けるのが好ましいです。
また、接種30分くらいは安静にし、体調に変化の無いことを確認するのが好ましいとされています。
接種当日の入浴の制限はありません。
実施は産婦人科が中心ですが、小児科、内科での実施も可能です。しかし、産婦人科
疾患に対する予防接種ですし、その後の定期健診のことも考え合わせますと産婦人科で
お受けになることが理想でしょう。
他の予防接種との間隔は、生ワクチン予防接種(ポリオ、麻疹、風疹など)との間は30日、不活化ワクチン(三種混合、インフルエンザなど)との間は7日間を空けなければなりません。
2011年春から国及び各自治体の努力により
中学1年~高校1年の女子に無料接種が開始され始めました。
追加
新たに高校2年が追加されました。(平成6年4月2日生まれ~平成7年4月1日生)の方も無料接種の対象となります
公費による無料接種は現在のところ平成24年3月31日までと定められています。その先の予定は未定です。よって計3回の接種を公費で受けられる日程的期限は、
第1回目を平成23年9月31日までに受けることです。
平成24年度も上記中学1年~高校1年の女子に公的接種が実施されるみとうしが強くなりました。(23年12月)
上の年令に当てはまらない人への接種
当院での費用は1回 13,000円 3回で 39,000円 です。
2009 大阪府産婦人科医会学術講演会
2009 大阪産婦人科医会病診連携研修会 聴講録
2010 日本産婦人科医会会誌
2011 日本医師会生涯教育協力講座
2011 08 第63回日本産科婦人科学会学術講演会 筑波大 松本光司
2011 11 中河内産婦人科研修会 府立大阪がん予防センター 植田正嗣