生理痛がひどいうえに生理の出血も非常に多く感じます
この二つの症状が同時に見られる場合婦人科医は子宮内膜症という病気の存在を強く疑います。その他に排便時に肛門の奥のほうに痛みを感じたりSEX時下腹部に不快な疼痛を感じるという症状を伴う場合、子宮内膜症という病気の存在は更に確実なものになります。
症状の存在からこのようにして導かれた診断名を臨床的子宮内膜症と呼んでいます。
生理痛がひどい、生理時の出血量が多い(月経過多)等の症状は出来るだけ速やかに治療、解消されなければなりません。しかし、最近の研究から月経困難症の多くが子宮内膜症の潜在群であることが明らかになってきました。すなわち、子宮内膜症という病は確実に月経困難症の女性のなかから発生し、現在のところその(子宮内膜症)発生は予防出来ないが、進行を抑えることが出来るというところまで進歩してきました。
子宮内膜とは子宮の内側を形成する壁状の膜のことで、女性ホルモンの働きによって月に一度成長、剥脱を繰り返しています。この剥脱した壁が排出される現象が月経そのものなのです。
子宮内膜症という病気はこの剥脱して体外に排出されるべき内膜が子宮から腹腔内に通ずる卵管を流れて、或いはその他のルートを介して本来有るべきところではない体の色々な部分に撒き散らされ、不都合な症状を引き起こす病的状態をいいます。
本HP「生理痛がひどくて困ります」の項にもありますように月経困難症の約30%が子宮内膜症を原因とすると記しましたが、原因の一つ機能性のものが半数近くにあるとものべました。私はこの機能性に分類されているものの中にも子宮内膜症がかかわっているケースがかなりの割合で含まれているのだろうと考えています。
日本では女性の10%に子宮内膜症があり、治療中の女性は50万人、管理されるべき患者さんの数は400万人を超えると推定されています。
子宮内膜症は進行すると生理痛や過多月経に止まらず附属器腫瘍(チョコレート嚢腫)
や腺筋症(子宮が腫大する病気)に発展します。
このチョコレート嚢腫から癌が発生するという非常にショッキングな事実が明らかにされました。そして、その頻度はチョコレート嚢腫の0.72%と報告されています。
日本国内で罹患が推定される子宮内膜症患者(潜在性子宮内膜症患者)の数から想定しますと、年間に子宮内膜症から癌化する患者数は10000人と推定されます。
生理痛、過多月経で困っている女性は単に症状を抑えるという考えから一歩進めて、子宮頸癌検診と同じように定期的な婦人科検診を受けられることをお奨めいたします。
特にチョコレート嚢腫のできている人は出来るだけ頻会に、3ヶ月に一度くらいの検診は必ず受けていただくことをお奨めいたします。
生理痛、過多月経に対する治療
15才未満 数ヶ月に一度くらいの月経困難症 消炎鎮痛剤
15才未満 毎月起こる月経困難症 消炎鎮痛剤、低容量ホルモン療法
15〜20才 毎月起こる月経困難症 消炎鎮痛剤、低容量ホルモン療法
20才以上 毎月起こる月経困難症 消炎鎮痛剤、低容量ホルモン療法
20才以上 チョコレート嚢腫5cm以上 切除術後、低容量ホルモン療法
20才以上 子宮腺筋症 低容量ホルモン療法、切除術、ホルモン療法
ホルモン療法治療薬の選択は医師の選択により多種の範囲にわたる。
2011 11 子宮内膜症セミナー 奈良医大 小林 浩